蚕が繭を作らない理由
昆虫には、いろいろな物質を出す腺という組織がある。絹糸腺、脱皮腺、誘引腺、唾液腺などで、蛾類・トビケラ類などでは絹糸腺が発達している。
中でも蚕の絹糸腺は、5齢期の約8日間で成熟する。発生学上、絹糸腺は唾液腺と同じ細胞群から発達したもので、幼虫期にだけ存在し、絹物質を作り、蛹(さなぎ)の初期までに進化吸収されてしまうようだ。
5齢熟齢期の幼虫を背面から解剖してみると、発達したS字状の絹糸腺がよく見える。口の下唇から二分すると吐糸(とし)部、フィリップ腺、前部糸腺、中部糸腺、後部糸腺の区別が簡単に識別できる。
絹糸の成分は、後部糸腺で合成されたフィブロインが、中部糸腺に流入し、中部糸腺で合成されたセリシンに包まれて、熟蚕(じゅくさん)が吐糸開始まで液状で貯える。これからフィブロインが液晶化、繊維化し、前部糸腺へ送られて脱水して絹糸になり、糸になる―――という複雑な仕組みが考えられてる。
沼田市の養蚕農家が1992年9月下旬に、5齢8日目になったので、上蔟(じょうぞく)しようとしたが、幼虫が熟蚕にならずに桑を食べ続け、糸を吐く気配がなく、大騒ぎになった。これまで多少は蚕が病気になることを経験しているが、1匹も繭を作らないということはなかった。方々の農家で騒ぎになったが、農家も農協関係者も打つ手ががなく、結局、桑畑に大きな穴を掘り、蚕座(さんざ)ごと破棄してしまった。
この時期の蚕を解剖してみたが、絹糸腺は細かったが、消化管は普通なため、一見すると健康だが、10月初旬まで桑葉を食べ続け、死んでしまった。
県の養蚕課や農林水産省なども実態解明に乗り出したが、原因はわからずじまいだった。ただ、他見でも同様の例があり、職者の間では、ある農薬が使用された可能性が指摘されていた。
空中で拡散しやすく、鱗翅目(りんしもく)昆虫の変態を抑制し、結果的に種を絶滅できる能力を持つ農薬で、イタリア、フランスなどでは、この出来事よりも先に使用を禁止していた。日本国内でも扱っていた業者がいたとされ、この農薬を撒布した農家がいたと考えれば、この時の異変を説明できる部分もある。
これ以降、沼田市内では長年の養蚕をあきらめ、枝豆栽培などに切り替えた農家が多く、「その原因は何だったのか」と、時折、思い返すことがある。
利根生物談話会会長 小池 渥 氏の記事より
このように蚕は環境の変化にとても敏感な生き物である。養蚕業の復活は、地球環境のひとつのバロメーターにもなるということも考えられる。
また、最近、秋葉原で悲惨が事件が起こってしまったが、蚕を通じて命の教育もできると思う。私たちの意識ややり方次第では、小さな虫から受ける恩恵は計り知れない。
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