2009年11月17日アーカイブ
高齢化によるさまざまな症状や認知症などに、漢方が効くことが明らかになってきました。
高齢者に多い病気の中で、介護する家族らの負担が大きいのは、アルツハイマーや血管障害に伴って起きる認知症です。時間の感覚や場所がわからなくなる見当識障害や記憶障害などは認知症の「中核症状」と言われますが、介護者にとって、「中核障害」より「周辺症状」の方が大きなストレスになることがわかっています。
周辺症状には、暴力や幻覚、徘徊(はいかい)などがあります。これらを軽くするとされるのが、漢方薬の「抑肝散(よくかんさん)」です。
東北大学加齢医学研究所の荒井啓行教授らのグループは2005年、抑肝散を一ヶ月間ほど投与することで、多くの患者の症状が改善されることを発見しました。
妄想や徘徊などを抑えるには、抗精神病を使うのが主流です。しかし、ふらつきなどの副作用のほか、認知症高齢者への投与で死亡率が上がる危険性も、アメリカで報告されました。
抑肝散の「肝」は、漢方医学的にいうと、血を蓄えて精神活動をつかさどる部位です。肝の働きが病的になると、怒りっぽくなったり多動になったりします。荒井教授は「抑肝散は、幻覚などの原因となる『脳の暴走』を止めると考えられる」と説明しています。
荒井教授が診た60歳代の女性のケースでは、抑肝散の投与で次第に幻覚や興奮が治まったそうです。
抑肝散の医療保険上の適応症は「不眠や子どもの夜泣き」です。多動症や徘徊などには認められておりません。また、抑うつ的な症状がある人にも向きません。もし家族に認知症の周辺症状があるようなら、漢方に詳しい医師の診察を受け、相談してみてください。
いくつか漢方薬をご紹介すると、「捕中益気湯(ほちゅうえっきとう)」は、季節性のインフルエンザの重症化を防ぐ効果が期待できます。「八味地黄丸(はちみじおうがん)」は、超高齢化時代を迎える日本には欠かせない「抗老化薬」として知られています。
高齢者の中には、複数の病気があり、多剤服用している人も少なくありません。多剤服用の問題はある程度認識されていますが、実際にはあまり配慮されていないようです。この点、漢方薬の大きなメリットは、さまざまな症状に対し、1、2種類の薬で対応できることです。専門家に相談してみる価値はありそうですね。