時は2010年。
坂本群馬には、家族がいた。妻のれいと上から美穂・あゆみ・美咲の三人娘だ。群馬の事業がなかなか軌道に乗らない坂本家を支えていたのは、自営で美容院をやっていた妻のれいだった。
当然、家庭での群馬の立場は悲惨なものだ。一家の主がプータロー同然なのだから仕方がない。妻や娘にバカにされながら、もがき苦しんだ時期であった。
主な事業内容は、HP・映像制作、ネットショップの運営などであったが、どれも安定した収入にはつながらなかった。
群馬には、中学時代の同級生で、長年家族ぐるみで付き合っている友人がいた。数年前に建設会社をやめ、整体師へと転身した設楽慎吾という男である。
慎吾がたまたま、同じく同級生で家業を継ぎ坊主になった東貴博をマッサージをしたことがあった。貴博は、大酒飲みの坊主である。久しぶりの再会で、慎吾を飲みに誘ったのだが、慎吾のほうはゲコであった。
そこで、同じく大酒飲みの群馬に白羽の矢が立ったのだ。後日、三人は久しぶりに再会し、飲み明かした。といっても、慎吾はウーロン茶だが、飲んだテンションについてこれる男なのだ。お互いに近況報告をしたこの時に、酔いどれ坊主の貴博から「文無し群ちゃん」のあだ名をつけられたのだった。
「群ちゃん、今度飲みに出るときは、子どものお年玉をくすねてきなよ」
などと言われる始末である。
それから間もなく、れいの美容院の内装をきれいにすることになった。その内装を頼んだのが、偶然にも、群馬の同級生の剛田浩だった。打合せには群馬も立ち会った。
久しぶりの再会で、昔話と近況を語り合った。浩は、中学を卒業すると、すぐに仕事に就いていた。そこで、メキメキと腕を上げ、二十代半ばで早くも独立してしまったのだ。再会したときには、すでに、十年以上も事業を続けたきたことになる。従業員も数名いた。そして、間もなく法人にするということだった。
浩は地元の商工会でも活躍している。かつて、やんちゃだった同級生たちが、しっかり世の中を支える存在になっていることがうれしかった。
「無用の用」とう言葉が好きだった群馬は、世の中に無駄なことなど何もないということを知っていた。
こうして偶然にも懐かしい同級生と立て続けに再会を果たしたことも、何か天からのメッセージだと考えたのであった。
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