ライバル

いつの時代も権力者の自己保身により革命は邪魔されるものだ。それを乗り越え、良き方向へ導こうとすることこそが、人類の進化である。ただ、あまり急ぎすぎると、世の中がついてこれずに歪みが生まれ、暗殺された英雄も数多くいるのも歴史上の事実。結局、勝ったものが正義なのである。

大手通信会社ソフトバイクの社長で、坂本群馬も尊敬する勝正志が志す「情報革命」の基幹でもある「光の道」も難航していた。群馬も微力ながら、機会があれば、いろいろな場所で「光の道」について語っていた。理念を語り続ければ、自然と同志は集まるものである。類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。

一方、最大の通信会社NTNTの代理店という千藤明のビジネスを手伝いながら、群馬に違和感を与えたものの正体が、徐々にあきらかになってきた。それは、世間では逆風も強く、絵空事だと思われていた光の道構想は、必ず成し遂げられると確信していたからだ。すると、どうなるだろうか。

「代理店はいらなくなる」

そうなれば、千藤の手伝いも必要なくなるだろう。

「次はプロバイダー戦国時代がやってくる」

群馬の頭には、そんな言葉が浮かんでいた。

現状を簡単に説明すると、ADSL回線のほうは、ソフトバイクグループのヤホーBBがNTNTの牙城を切り崩していた。これは、ADSL回線とプロバイダーが一体化しており、セットで安く使えるという戦略で、ユーザーを獲得したためで、勝の武勇伝のひとつである。この時、勝はNTNTはもちろんのこと、いろいろと役所の許可が必要なため、総務省などとも、人知れず戦っていた。これにより、価格競争が生まれ、日本のインターネット環境は格段に改善されたのだ。

ただ、ADSL回線の弱点は、アクセスポイントから距離が遠くなると、回線スピードが遅くなってしまうことだった。そのため、徐々に増えつつある映像などを含む大容量通信には、パワー不足になっていった。それを解決するのが光回線なのだ。こちらは、距離に影響されることもなく、安定した通信が可能となる。この光回線のインフラを一挙に担っていたのが、NTNTであった。だが、いいものだと分っていても、利用料が高いため、それほど普及していなかったのだ。

光の道が成し遂げられれば、NTNTからインフラ部門が分離され、通信は光回線のみに統一される。そして、メタル回線は撤去されるため、維持管理の経費が大幅に削減でき、利用料は格段に安くなる。つまり、電話のみで利用する場合も、インターネットにつなげる場合も光回線を引く事が必須となるのだ。当然、代理店はいらなくなる。電気や水道を引くのと同じだと思ってもらえばいい。

そうなれば、光回線を利用したプロバイダー部分のみが、自由競争になるということだ。

他人と競うことが苦手な群馬だが、資本主義の世の中では、絶対に負けられない勝負があることも知っていた。ただ、どのステージで戦うかが大きな問題となる。当然、実力とのバランスも重要だ。

だが、戦国時代を見据え、群馬が最大のライバルと考えたのは、あろうことかヤホーBBだった。

これから誕生するであろう光回線のインフラ専属部門の上で始まるプロバイダー合戦の中でも、勝が率いるグループであるヤホーBBは、そのあたりも抜かりはないだろう。だが、光の道にせっせと逆風を吹かせ、国の将来も考えず、自己保身に走っているような会社になら、何とか勝てると考えていた。そんな戦国時代の中で、台風の目になってやるつもりでいたのだ。他社がもたもたしている間に、群馬はいち早く戦いの準備に取り掛かった。

「僕は勝さんにも負けないぞ」

まわりから変人扱いされたことは言うまでもない。