無用の用プロジェクト

坂本群馬は、農業革命の二本柱を思い描いていた。

まずは、規格外商品の利用だ。見た目が少し悪いだけで捨てられている農産物をなんとか利用できないかと考えていたのだ。これは群馬の好きな言葉である「無用の用」にも関係している。

この日は、同級生で野菜の卸売業を営む角口守に会いに行った。守は、父親から受け継いだ角口商店の二代目である。角口商店の主な事業内容は、農家から野菜を畑ごと買取り、それを大手スーパーに卸すことだった。規模もそこそこ大きいものだ。群馬は守に、規格外商品について聞いてみた。
「かどっち、出荷できない野菜はどうしてるの?」
「わけあり商品とかで直売とかしてるけどね。それでもやっぱり結構捨ててるよ」
「そうなんだ・・・。今ね、そういう規格外の農作物をうまく利用する方法はないか考えてるんだよね」
「そういうサービスがあれば、うちも助かるよ。っていうか、農家の人は喜ぶんじゃないかな」
「だよね。また、何かあったら話し聞かせてね」
「はいよ。期待してるよ。群ちゃん」

この日は、鉄工業を営む佐々木哲夫の会社を訪れていた。たかほ製作所だ。
「テツくん、規格外の農作物を利用して商品にしたいんだけど、何かいい方法はないかね?」
「そう言われてもね〜。俺っちは鉄屋だからね〜」
「やっぱり、見た目を気にしなくてすむように加工するしかないと思うんだよね〜」
「う〜ん・・・。そういえば、うちのお客さんで、野菜を加工してスープとか缶詰とか作ってる会社があるよ。規模は小さいんだけど」
「マジで!早く言ってよ。早速紹介して!」
「ちょっと、手が空いたんで、今から行ってみる?」
「おう、行こう行こう!」

群馬は、哲夫に紹介してもらった会社が、とても気に入った。確かに規模は小さいが、規格外農産物の利用をいち早く行っていたのだ。早速、この会社と資本提携して、規格外農産物を加工食品として利用する事業に取り掛かった。名づけて「無用の用プロジェクト」だ。

プロジェクトの内容は、ウェブサイトを制作して、全国の農家から規格外で出荷できなかった農作物を集めるシステムを作り、それを提携会社で加工して、スーパーへ卸したりネットで直売するというものだった。また、群馬はこの提携会社に、設備をするときは、たかほ制作所にお願いするよう、指示を出していた。哲夫に対するちょっとした感謝の気持ちであった。

守にも協力してもらって、プロジェクトを進めていったが、なかなか思うようにいかなかった。ますます、高齢化する農家の人々に、ネットを使っている人が少なかったのも原因のひとつのようだ。だが、「農家が儲かるシステムを作りたい」という群馬の理念にゆるぎはなかった。そうすれば、農業をやりたいという若者が増えるという確信もあったのだ。