カルチャー

株を上場して資本を得た坂本群馬には、いくつかやりたいことがあった。ベースは、農業革命だったが、ビジネスとカルチャーの融合もそのひとつだ。

この日、群馬は同級生の太田美津子に会っていた。美津子は大手のアパレルメーカーで働くキャリアウーマンだったが、体調をくずし、実家で療養していた。前回の同窓会では、実行委員も務めた。
「みぃちゃん、体調はどう?」
「うん、おかげさまで大分良くなったよ。そろそろ社会復帰もしないとね」
確かに、元気そうだ。群馬は安心して本題に入った。
「実はね。前に、みんな集まったときに少し話したけど、新しい事業として、芸能事務所を立ち上げようと思ってね」
「あ〜、前に言ってたやつね」
「そう。今、うちの娘がモデルやってるの知ってる?」
「もちろん知ってる。美穂ちゃんでしょ。今や有名人だもん」
「その美穂を中心に海外で通用するタレントを育てようと思ってね」
「面白そうね」
「でしょ。実は、それをみぃちゃんに頼めないかと思ってる。体調の問題もあるだろうけど・・・。みぃちゃんなら、海外の経験も豊富だしね」
「え〜」
美津子は、驚いていた。そして、そんな大役が自分に勤まるか不安もあった。
「う〜ん。考えとくね。ドクターにも相談しないと・・・」
「返事は焦らなくていいよ。それと、もしやってもらえるなら、ワシが全面的にバックアップするからね」
「ありがとう」

美穂は18歳になっていた。すでにモデルのみでなく、女優としても活躍していた。群馬は美穂が学校を卒業し、本格的に仕事を始める時期に合わせて、事務所を立ち上げ、新事務所へ移籍させた。元々、マネージャーもなく、仕事の管理も自分でやっていたので、移籍はスムーズに行われた。そして、美津子からも良い返事をもらい、美穂は美津子の指導のもと、海外を中心に活動を始めたのだ。

「みぃちゃん、引き受けてくれて、ありがとう」
「こちらこそ、いいお話しをいただいて。頑張るね」
「あー、無理しなくていいよ。楽にね」
群馬がいうと、美津子の目は少し赤くなった。

美穂には、こんな言葉をかけた。
「美穂、今度は世界のステージで伸び伸びやってみなよ」
「パパ、ありがとう。私、頑張る」
「美穂が世界で活躍することが、そのうち、日本の経済成長につながるから」
頑張りやで、責任感の強い美穂は、群馬の言葉で、誇りを持って世界へ飛び出すことができた。