M&A

この日、坂本群馬は、同級生の倉木雄太を訪れていた。「不動産王」とあだ名をつけられる程の資産家である倉木に投資してもらうためだ。最近の群馬の動きは、倉木の耳にも入っていたらしい。

早速、本題に入った。
「プロバイダー戦国時代が訪れる。その時がチャンスなんだ。ワシは、日本一安くて安全なプロバイダーサービスを提供したい。今、買収先の企業もいくつか候補が上がってる」
次第に倉木も惹きこまれていく。群馬の発想と行動力に感心しているようだった。
「クラさん、勝算は7割。5割だと危険過ぎるし、9割だと手遅れになる。今が勝負する絶好のタイミングだと確信してるんだ。頼む、力を貸してくれないか」
倉木はしばらく考えこんだ。
「・・・分った。100株引き受けるよ。今、自由に動かせるのが、これくらいしかないんだ」
驚いたのは群馬の方だ。
「え〜、そんなにも!まさか、そんなに引き受けてくれるとは思わなかった。ありがとう、クラさん」
群馬は思わず、倉木の手を握っていた。
100株といえば、1,000万円だ。それほどの金額を自由に使えるとは(どれだけ資産があるんだ)と正直思っていた。

だが、後で分ったことだが、倉木も少し無理して用立ててくれたらしい。群馬は良き友と巡り会えたということだ。この倉木の出資をキッカケに、徐々に群馬の元に資本が集まり始めた。

資本主義の未熟さを常に残念に思っていた群馬だったが、この時は(まんざら捨てた物でもない)と感じていた。同時に、大きなプレッシャーもついてきたが、事を成すには、これに負けてはいけないと歯を食いしばって、立ち向かっていた。

一方、買収先もぴったりの企業が見つかった。技術は素晴らしいものを持っているのだが、経営者が病気がちで、行く先を案じていた会社だった。群馬は、運命の出会いを感じていた。そして、早速、M&Aの交渉に入ったのだ。

半年間の地道な交渉を重ね、両者納得のいく条件で、M&Aが成立した。お互いの利害が一致していたので、とても友好的なものだった。

さて、これからが群馬の腕の見せ所というものだ。経営状態が悪化して身売りしたわけだから、買収先の企業のやり方を優先させるのは危険である。そのことを知っていた群馬は、自ら率先して指揮をとった。

まずは、群馬の「日本一安くて、安心なプロバイダーを作る」という志しを社員に理解してもらうことから始めた。そして、徹底的なコストの見直しが始まったのだ。群馬は、会社に泊まりこむこともしばしばだった。そんな情熱が、社員たちにも伝わったのか、社員からもいろいろな意見がでるようなり、社内は活気付いていた。

千藤明の会社インバイトとも提携して、オモパロスは徐々に底力をつけていった。そして、M&Aから一年以上経った頃、この小さな会社は、日本一安くて、安全なサービスを提供できるプロバイダー業者になることができた。ただ、世間の知名度はまだまだであった。