シナジー効果

世の中は、徐々に光の道へ移行していた。勝正志の志しは、同士を呼び、日本中へ広がっていったのだ。そして、光回線の利用料は、段階的に値下げされ、メタル回線の撤去もついに始まった。その頃、坂本群馬も勝負に出ようとしていた。「日本一安くて、安全なプロバイダー」を自負する群馬は、光回線へ完全移行する前に仕掛けたかった。

そこで、段階的な値下げに合わせ、思い切って広告宣伝費をつっこんだ。ネット・テレビ・新聞・雑誌・駅・電車など、一気に広告を出すことで、シナジー効果を狙うというのも群馬の戦術なのだ。

広告代理店には、自由にやってもらった。そのため、クリエーターたちは、うるさいことをいわないオモパロスの仕事には、伸び伸びとリラックスして取り掛かれたのだ。ただ、最終チェックは必ず群馬が行っていた。結果として、面白い広告内容となり、知名度も高感度も一気に上昇した。

こうして、オモパロスは、業界内でも無視できない存在となっていったのである。

だが、急成長した会社は、どこからともなく妬みや嫉妬を買うものだ。根も葉もないうわさで、ゴシップ誌に叩かれてしまった。
「日本一安いが、日本一危険なプロバイダー」「すぐに倒産する」
このような内容だった。

群馬は、速攻で出版社へ乗り込んだ。もっとチカラがあれば、世にでる前に握りつぶすこともできたのだろうが、この時は、まだチカラ不足だったのだ。
「担当者を出せ。なにがすぐ倒産するだ。ふざけるな。このサービスはワシらの汗と涙の結晶じゃ!」
なりふり構わなかった。そこへ担当者という人物が現れた。
「どのようなご用件で」
「どのようなご用件もクソもあるか!この記事じゃ」
そのページを開き叩きつける。
「こちらも、それなりの情報を元にやっておりますので」
「どこだ!情報源は」
「それは、お答えできません」
担当者はのらりくらりとごまかしている。だが、群馬の気迫に押され始めている。
「正々堂々勝負しとるワシらのサービスをバカにするな!数百万人のお客さまにも失礼じゃ!」
「そ、そう言われましも・・・」
群馬は机を叩きながら、怒鳴った。
「この大事な時期に、裁判などしとる時間はない!謝罪と訂正記事をださないなら、ワシャ、灯油かぶってここで死ぬ!」
さすがに、このひと言に相手もビビったようだ。もしからしたら、死体の後処理のことを考えたのかもしれない。
「そ、そんな。分りました。謝罪と訂正記事を早急に手配します」

後日、謝罪と訂正記事が掲載されたが、世の中流れは、そう簡単に止められない。サービス開始以来、右肩上がりで成長を続けてきたが、この一件以来、シェアを奪われ始めてしまった。うわさの元は、どこの誰ということではなく、同業他社の妬み・嫉妬から生まれたものだろうと群馬は思っていた。シナジー効果というのは、良くも悪くも働くものである。