上場

第二回同窓会が開かれた。初回の問題点も改善したので、参加人数は若干増えていた。(前回の同窓会は楽しかった)という口こみの評判も手伝ったのだろう。

坂本群馬の中学時代の憧れの人、黒崎瞳も参加していた。30年ぶりの再会だ。だが、悲しいかな群馬のことはまったく覚えていないという。ほとんど話したこともなかったので当然だろう。
「お久しぶりです。坂本です」
「坂本君?ごめんなさい。よく覚えてなくて・・・」
「全然大丈夫ですよ。でも、実はワシ、中学時代、瞳さんに憧れてまして」
「そうだったの?言ってくれれば良かったのに」
瞳は、頭も良く、運動もできたが、今も変わりなかった。群馬は相手のレベルに合わせて会話をするようにしているが、瞳とはかなりウイットな会話を楽しめた。やっぱり賢い女性だと改めて感心していた。

そして、当時の恋心を伝えられたことと、瞳が現在幸せであることが分って満足していたのだった。そんな瞳の参加には、公私共に群馬の右腕となっている設楽慎吾が尽力してくれたらしい。
「瞳ちゃん、五年後くらいにまたやると思うので、次回も参加してね」
「はい、ぜひ」
群馬にとっては、瞳との再会も果たし、良き同窓会となった。前回のようなイベントをなくしたため、ゆっくりと語り合うことができた。こうして、同級生たちは、皆それぞれの同窓会を楽しんだようであった。

それから数ヶ月、プロバイダー4大勢力の一角を担っていたオモパロスは、株を公開し、いきなり東証一部に上場した。久しぶりの大型上場ということで、世間でもちょっとした話題になっていた。公開以前から株の価値は徐々に上がっていたが、上場をキッカケに一気に跳ね上がった。

同級生の倉木雄太の株は投資してもらったときと比べると約100倍にもなっていたのだ。金額にすると10億程度だ。創業者である群馬の持ち株はそれ以上に、とんでもない価値になっていた。同時に、数億というキャッシュも入ってきた。上場すると一気に資本の波が押し寄せるのである。

また、会社の機能的には東京がメインだったが、本社の所在地を地元にしていた。文無し時代に育児の面でお世話になった地元へ法人税を支払うという形で恩返しをしたかったのだ。そして、上場を機にちょっとした本社ビルを建てることになった。その相談も兼ねて、群馬と慎吾は不動産会社の社長でもある倉木と会っていた。倉木のなじみの高級料亭だ。
「一部上場おめでとう!乾杯」
倉木のひと言から始まった。
「クラさん、やっと恩返しができたよ。ありがとう」
「いやいや、こちらこそ、ありがとう」
「でもさ、上場しちゃえば、株なんて水ものだから今のうちにキャッシュにしちゃったほうがいいよ」
「それは、群ちゃんの舵取り次第でしょ。でも、とりあえず、1億くらいはキャッシュにしておくかな」
「そうだよ。そうしなよ。群ちゃんの舵取りは危ないから」
慎吾が割って入ると、笑いが起こった。
「ワシも若い頃、株でいろいろ失敗してね。他人の会社の株で儲けようなんて考えは捨てたわけ。どうせなら自分の会社の株で勝負しようってね。自社株なら上がっても下がっても所詮は自分の責任。他人のせいになんかできないからね」
「それで、一部上場しちゃうとは、非常識すぎるけどね。群ちゃんらしいよ」
このあと三人は、年甲斐もなく、将来の夢について語りあった。だが、夢を持つことに年齢など関係ない。遅すぎることもないのだ。また、群馬はいくつになっても夢を語り合える友がいるということに幸せを感じていた。

この日は倉木にご馳走になった。倉木の高級外車は、さらにグレードアップしていた。群馬と慎吾は国産の最新電気自動車だった。群馬は普段、移動中も後ろの席で仕事をしているのだが、この時は久しぶりに助手席で、慎吾と夢の続きを語りながら帰って行った。