株の公開後も坂本群馬の生活は特に変わりはなかった。ただ、ランボルギーミの最新作を一台購入した。群馬は、世間一般でいう高級品というものに興味はなかったので、普段の服はユニシロだし、スーツは青竹、腕時計はひとつも持っていなかった。（時計などスマートフォンについてるので充分）という考え方だったのだ。このへんは、文無し時代から何も変化していなかった。
ある時期から運転手をつけるようになっていたが、これは、元々運転が下手だったので事故の確率を下げる目的と移動中でも仕事をするという目的があった。そんな群馬が、なぜかランボルギーミには、こだわりをみせた。
自分へのご褒美というわけでもなかったが、しいていえば、ランボルギーミという会社のストーリーとこれから進む道を重ね合わせたのかしれない。というのもランボルギーミの創業者は、イタリアで農家をしていたのだ。それから農業をより効率よくするために、トラクターの製造販売を始め、その事業で財を成したのだった。
ある日、愛車のフェラーロの調子が悪く、販売店へ行くと、乗り方のせいにされ修理をしてもらえなかった。（それならば、もっとすごいスーパーカーを自分で作ってしまえ）ということで現在のランボルギーミが誕生したのだ。この時代に今でも一台一台手作りしているというのがすごい。
これから農業革命を志す群馬は、元農家というところにも共感したのだろう。余談になるが、ランボルギーミの牛のエンブレムは、フェラーロの馬に対抗したものというのが一般的だが、本人がおうし座だったからという説もある。群馬の三人娘、美穂、あゆみ、美咲もおうし座だったというところにもランボルギーミには、ただならぬ縁を感じていたようだ。
だが、群馬は運転が苦手だったため、自分で運転することはほとんどなかった。同級生で群馬の会社に勤める設楽慎吾に運転してもらい、助手席でドライブを楽しむだけで満足しているようだった。
ある日、群馬は久しぶりに休みをとった。そして、妻のれいをドライブに誘った。子どもたちは学校である。
「れいさん、久しぶりに二人でドライブでも行かない？」
群馬は妻をさん付けで呼んでいる。文無し時代、れいに生活を支えてもらっている頃からずっとだ。
「どうしたの？急に」
「いや、れいさんもランボルギーミに乗ってみたかなと思ってね」
「どうせ、私が運転でしょ」
「わかった？」
そう言って、群馬は助手席に乗り込んだ。そして、二人は軽井沢へ出かけた。れいは運転は上手だったが、スピードを出しすぎるくせがある。
「ちょっと、スピード出しすぎじゃない？」
「あっ、ほんとだ。だって、すごいパワーなんだもん」
時速200kmを超えていた。
「気をつけてよ」
車内で子供たちの様子などをれいから聞いた。美穂は、モデルの仕事を順調にしていて、あゆみは医者になりたいと言っているらしい。末っ子の美咲は美穂の影響もあり、アイドルになりたがっている。
群馬は、結婚して以来、れいにプレゼントらしいプレゼントをなにもしていなかった。金がない時期が続いたため、ついつい何もしない習慣になってしまったのだ。れいもすでにあきらめて、期待もしなくなっていた。
「れいさん、もう少しで誕生日だよね？今年はなにかプレゼントしたいんだけど何がいい？」
「どういう風の吹き回し？今まで何もしてくれなかったのに」
「おかげさまで、ワシにもそれなりの資産ができましてね〜」
れいは、しばらく、考え込んだ。そして、
「じゃあ、今までの分を全部まとめて、・・・新しいお店！」
「お〜、随分大きくでたね〜。しかも、また、現実的だこと」
「最近、丁度考えてたのよ。目星もつけてあるし」
「そ〜なの？仕方ない、じゃあ、ワシが新しいお店をプレゼントするぜよ」
なぜか土佐弁だった。
「やった〜！」
れいは、自営で美容院をやっていた。早速、群馬は新店舗を出すための資金を5,000万ほど用意した。れいに対する長年の感謝の気持ちであった。
コメント