設楽慎吾が整体師になり、市原清介がオモパロスに加わってから月日は流れた。
整体師としての慎吾も徐々に人気を集め、今や施術を受けるのに数か月待ちだという。慎吾は「もみの木整体」で、自分の天職を心から楽しんでいるようである。
一方、清介はオモパロスという怪物を自由に使いこなし、自分の夢と坂本群馬からの要求を着々とカタチにしていた。
群馬の読み通り、清介は実のところ、なかなかの野心家であったのだ。
野心家というと響きが悪いかもしれないが、要するに優秀な事業家ということである。
群馬が考える理想の世界をまるで魔法の杖でもふるように、現実世界へ落とし込んでいった。
思い切って飛び込んだ若い怪物の中で、清介も天職を心から楽しんでいるようである。群馬と清介との間には、起業家と事業家という絶妙な関係が成り立っている。
またこの頃から実務のほとんどを清介に任せ、群馬はオモパロスアカデミアの開校準備を進めていた。
そんなある日、群馬は新入社員の前でこんな挨拶をした。
「みなさん、入社おめでとうございます。
今、ここにいる新入社員の方は、厳しい入社試験を乗り越えた優秀な人たちだと思います。
ですが、本当に大変なのはこれからです。
いきなり厳しいことを言うようですが、今の時代、会社から給料をもらい、与えられた仕事をするという考えでは生き残れません。
新卒を採用し、雇用するというのは、企業にとってはリスクの高いことなのです。
みなさんも就職活動で実感していると思いますが、新卒採用をやめてしまった企業も多かったのではないでしょうか。
実際に新卒の方が、会社に貢献できるのは、三年くらい経って、ようやく仕事にやり甲斐を見出せたくらいからだと思います。
要するに、三年間くらい、新卒の方たちは給料分の仕事もできないということです。
そんな人たちに給料を払うほど余裕のある会社が少なくなっているわけですね。
みなさんの中には、新卒の給料ってこれだけ?と不満な方もいるかもしれませんが、残念ながら今のあなたたちは、その少ない給料分の仕事もできないのが事実なのです。
ここにいる方たちは、当然、夢と希望を持って入社していると思います。
ですが、先ほど述べたように、約三年間、自分は給料泥棒なんだというくらいな気持ちで、どんな仕事を与えられても辛抱してください。
こんな時代ですが、あなたたちがやり甲斐を持って仕事ができるようになるまでの給料は私が保障しますから、どうぞ安心してください。
我々もそういったリスクを覚悟していることを理解していただき、お互い三年の辛抱です。
夢や希望のあるイノベーティブな仕事というのは、その先にあるもので、準備期間は三年でも少ないくらいです。
そして、そんな仕事ができるようになったら、会社にしっかりと恩返ししてくださいね。
そうすることで、我々は、また、新たな新入社員の教育もできますし、みなさん自身の給料にも当然繁栄されるわけです。
みなさんにとっては、まだ先の話しですが、私は現在、優秀な経営者や優秀な人材を育てるため、アカデミアの開校準備を進めています。
日本の大きな組織というのは、昔から、上へ行けば行くほど『バカ』になると言われています。
もちろん、自戒も込めております。
そこで、このままではいかんということで、組織自体を変えるために、まずは上に立つ人間を教育しなくてはいけないと考えているのです。
みなさんの中には、現場でやり甲斐を見つけて価値ある仕事を続ける方もいると思います。
また、もっと上を目指して、もっと世の中を良くしたいと考える人もでてくるかもしれません。
これは、世の中を支える人と変える人の違いだと言っていいでしょう。
どちらが偉いというわけではなく、自分にあった道を進めば良いのです。
そのための選択肢のひとつとして、アカデミアの準備をしています。
お互いに充実した良い時間を過ごし、いつの日かみなさんとアカデミアで再会できることを今から楽しみにしています。
それでは、良き世の中にするために、今日から共に頑張りましょう」
この後まもなく、オモパロスアカデミアは開校された。
群馬は、このアカデミアを開校することによって、オモパロスグループが末永く世の中のために貢献できる仕組みを創ろうとしていたのだ。
そのためには、まず良き後継者を育て、スムーズに事業継承する必要がある。どんなに優秀な人物でも、一代でできることに限りがあるのは当然のことだ。
ゆえに、そういう仕組み造りが重要であると共に、良き経営者の仕事のひとつだといえる。
群馬がただの起業家で終わらなかったのは、事業家である清介という良きパートナーを得たことが大きかった。
世の中には、パートナーやチームによって、1+1が無限の可能性を秘めることもあるのだ。
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