以前、私が勤めていた会社は、取引先の会社から内容証明で送られてきたある書類が届いてから、三ヶ月で倒産しました。
創業から30年間、右肩上がりで成長を続けていた会社です。
前年には50億円近い売り上げがあった会社が、書類ひとつで倒産へ追い込まれたわけです。
当然、そこに至るまでには、上層部の様々な思惑や人間模様があるわけですが、そのあたりは割愛します。
とにかく、私を含め、たくさんの人の人生が一変したことは言うまでもありません。
私はこの時に、契約書というものは、それほどの威力があるということを思い知らされました。
また、現在の延長上に必ずしも未来が存在しているわけではないということを身を持って体験したわけです。
その後、いろいろ悩んだのですが、混乱している販売員の方々のお役に立ちたいという強い想いから、尊敬する上司と一番仲の良かった同僚と一緒に、あの内容証明の送り主と共に仕事をすることになります。
そして、いくつかの契約書が作られ、情報誌の制作やウェブサイトの制作が始まりました。
サイトが完成してからは、新たな契約書が作られ、月々のサイトの管理を行うことになりました。
この頃には、ある程度、相手の会社を信用しておりましたので、別に口約束でもいいのに・・・などと思っておりました。
それから何年かの月日が流れ、私が管理していたサイトが、ある日突然、リニューアルされていたのです。
ある日、突然です。事前の連絡も何もなしで。
契約書をひっぱり出して再確認してみると、三ヶ月ごとの自動更新で、どちらかの都合で解約するときは、お互い一ヶ月前に申し出るという内容になっておりました。
なので、そのうち先方から連絡があるだろうと思って待っていたのです。
すると、何の連絡もないまま管理料の支払いが止まってしまったので、私は当時から面識のあった役員に連絡して、契約書を確認するように申し出ました。
ですが、先方は人の出入りが激しく、契約書を作成した方はすでに退社していたので、どこにあるかわからなくなってしまったようなのです。
その後、担当者から見つかったと連絡があったのですが、サイトもリニューアルしてしまったし、管理料は勘弁してもらえないかと言われました。
ですが、そこは私も譲れませんので言いました。
「以前、私たちの会社は、御社の契約書の内容をもとにして倒産しました。例え、小さな契約だとしても契約書とはそれほどの効力があるのではないですか」
こうして、とりあえず、三ヶ月分の管理料をお支払いただきました。
私にとっては、お金の問題というより、筋が通るか通らないかが重要だったのです。
事前にリニューアルの件を教えてもらっていれば、もっと円満に解約できていたはずなので、非常に残念に思っております。
結果的には、口約束で済ませなくて良かったということと、契約書に救われたというかたちになりました。
また、ネットビジネスを続けていると、いろいろなお客様がいらっしゃいます。
中にはクーリングオフで何でも返品できると思っている方もいるのです。
ですが、通販では特定商取引法に基づいて取引が行われているのですよと説明すると、「法律でそうなっているんですか〜」となんとかご納得いただけます。
法律がすべてだとは決して思いません。むしろ、侠気(おとこぎ)の基での口約束のほうが重要だと思っております。
※ここでの侠気とは、弱い者が苦しんでいるのを見のがせない気性、義侠心(ぎきょうしん)のことで、男女は関係ありません。ちなみに、侠気溢れる女性もたくさんいらっしゃいます。
ですが、みんなに侠気があるわけではなく、まだまだ、法律や契約書に守られないと、ビジネスなどできないのかなと、少しさびしい気がしております。
法律といえば、違法ダウンロードが刑事罰の対象になりました。
ですが、みんな思っているであろうことをあえて言うと、「どうやって取り締まるの?」ということです。そうです。所詮は無理です。
中には違法ダウロードして、いろいろなものを手に入れたことを特殊なスキルをもっているかのように自慢している方もおります。
そういう話しを聞くと、非常に残念です。
違法ダウンロードの方法など、いくらでもあるでしょうし、できたからといって、すごくもなんともありません。
実際、私にも簡単にできるでしょう。
ですが、私がそれをやらない理由はただひとつです。
それは、美しくないから。
違法だろうがなんだろうが、関係のないことです。
法律を無視するわけにはいきませんが、侠気の基での口約束や美しさを重視して生きる人が増えれば、もっと素敵な世の中になるのだと思います。
例えば、夫婦の間に真の信頼関係があれば、婚姻届など必要ないのではないでしょうか。
ですが、現実世界では、多くの夫婦が、それにより縛られながら守られているのかもしれません。
口約束で成り立つような美しい世界が理想的なのでしょうが、まだまだ未熟な我々は契約書の効力に頼らなくてはいけないようです。
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